テーマ「不動産の適正価値を把握する方法は?」
1 はじめに
相続や離婚等が発生した際に、不動産の価値をめぐって争いになるケースが絶えません。そのような場合に、不動産の適正価値を把握するにはどうすればよいでしょうか?今回は、一般の方が不動産の価値を把握する方法について触れてみたいと思います。
2 不動産の価値を把握する方法
不動産の価値の把握について、一般の方がアプローチする方法は主に以下のものが考えられます。
【土地】
① | 地価公示 | ・毎年1月1日時点の更地価格を国土交通省土地鑑定委員会が公表するもの(公表時期は毎年3月下旬) ・全国で約2万6000地点が設定されている ・土地収用や公共事業用地取得の補償額の算定の基準として利用されている |
② | 地価調査 | ・前記の地価公示を補完するもので、毎年7月1日時点の更地価格を各都道府県が公表するもの(公表時期は毎年9月下旬) ・全国で約2万1600地点が設定されている ・価格の判断基準や利用方法は地価公示と概ね同様 |
③ | 相続税 路線価 | ・相続税算定の基礎となるもので、毎年1月1日時点の更地価格を国税庁が公表するもの(公表時期は毎年7月上旬) ・地価公示・地価調査の価格を100とした場合、相続税路線価は約80%に該当する |
④ | 固定資産税 路線価 | ・固定資産税算定の基礎となるもので、1月1日時点の更地価格を各地方自治体が公表するもの ・地価公示・地価調査の価格を100とした場合、固定資産税路線価は約70%に該当する |
出典「全国地価マップ(一般財団法人資産評価システム研究センター)」
https://www.chikamap.jp/chikamap/Portal?mid=216
【建物(家屋)】
① | 固定資産税 評価額 | ・固定資産税算定の基礎となるもので、1月1日時点の建物価格のこと ・実際の建築費と比較して約5割~7割程度の水準となっている(新築時) |
② | 実際建築費 | ・新築時に建築に要した費用 ・新築時から年数が経過している場合は、建築費指数等を元に時点修正(物価変動)を要する |
3 上記各価格と不動産の適正価値との関係
上記のように「土地」「建物」の各価格にアプローチする方法をみてきましたが、これらの方法により求められた不動産価格は果たして適正価格といえるのでしょうか?その答えは、「適正価格といえない場合が多い」です。以下、「土地」「建物」について、それぞれみていきたいと思います。
土地価格について、仮に相続税路線価から土地価格を査定する場合を考えます。対象不動産が存するエリアにおいて土地に係る需要が非常に多い場合、実勢価格(≒適正価格)は相続税路線価の3倍~4倍といった事例も散見され(極端な場合、相続税路線価の10倍を超える取引もみられます)、逆に需要が少ないエリアについては、相続税路線価を下回る価格でしか取引が成立しないような事例も見られます。このように相続税路線価や地価公示等のいわゆる公的価格は実勢価格(≒適正価格)と乖離していることも多く、適正価格の把握という観点からは参考程度にしかならないといえます。
建物については、固定資産税評価額は新築時から適正価格と一定の乖離がみられます(適正価格>固定資産評価額)。また、築年が古い建物(例えば築50年の木造家屋)については、適正価格としては価値ナシという判断になることも多いですが、固定資産税評価額ではどれだけ古い建物であっても新築時の2割の価値を残す評価となるため、この場合も適正価格と固定資産税評価額とに差が生じてしまいます(適正価格<固定資産評価額)。次に実際建築費からのアプローチについては、実際に建築に要したコストなだけあって概ね適正価格に近いことも多いですが、ただ沢山コストをかけた建物であっても市場のニーズに合っていない場合は、結局のところ需要者(買い手)からはコストに見合った評価をされず、適正価格は思っているよりも低くなることもあります(適正価格<実際建築費)。
4 一般の方が不動産の価値を把握することは可能であるか?
一般の方が不動産の価値を把握する方法についてみてきましたが、結局のところ、「土地」「建物」についての「なんちゃって価格」は把握できますが、本当の意味での適正価格に辿り着くことは非常に困難といえます。一方で、不動産鑑定士は不動産の適正価格の把握を可能としておりますが、それは
・実際の取引データが入手可能である(不動産鑑定士のみ閲覧可能な取引事例に関するデータベースがある)
・対象不動産の需要者(買い手)の属性や価値判断基準を調査し、当該需要者が対象不動産にどの程度の価値を見出すかを調査する(不動産仲介業者や投資家への調査等)
といった実務作業に基づく裏付けがあるからです。
相続等が発生して適正価格が必要な場合は、2で紹介した方法に基づき安易に価値を把握すると間違った価値判断をすることとなり、その結果、誰かが得をして誰かが損をするという歪んだ状況が発生しかねません。無用のトラブルを避けるためにも、不動産の適正価格が必要な場合は専門家である不動産鑑定士にご相談していただくことをお勧めします。
以上