相続税対策の考え方(第2回)

平井 真 [プロフィール]

相続税対策の基本的な考え方は、相続税計算上の財産を減らすこと納税資金を確保することの2つ

であるということを前回お話ししました。

今回は相続税の対象となる財産を減らす方法について考えます。


【使ってしまう】

散財してしまえば財産は減ります。まず財を築いた人が思うように使うのが一番です。と申し上げる

と「そんなこと言われなくてもわかっている、なるべく残したいからどうしたらいいかと考えている。」

と聞こえてきます。

同じ「使う」なら非課税財産に換えておくという方法があります。

とあるお家の相続で「自分が亡くなったらお墓と仏壇を新調してほしい」という遺言書がありました。

この遺言書を拝見して、生前に相談を受けていたら、と悔やまれました。生前に新調していたら、預

貯金(課税財産)が墓地・墓石・仏壇(非課税財産)に換わっていたのです。同様に一定額まで非課税

の取扱いがある「生命保険」に換えておくのも有効です。

また、違うお家では、生前に夫婦でクルーズ船世界一周旅行をすることで預貯金(課税財産)を良い

思い出(非課税財産)に換えられていたというお話を聞き、温かい気持ちになりました。

自分の元気なうちに子や孫のために使うのもいいでしょう。財産を残してあげて、自分がいなくなっ

てから感謝されるより、喜んでくれる姿を自分の目で見て、「ありがとう」と言ってもらう方が良いので

はないでしょうか。


【移転させる】

相続財産を減らす方法として、生前贈与はよく取られる手法であり王道です。最近、相続税と贈与税の

関係について見直しが行われ、同時に、今までごく限られた場合にしか相続税対策に効果がないとされ

ていた相続時精算課税制度が有効なものに変わります。しかし、この方法には相当の年数が必要ですし、

綿密な計画が必要となります。(贈与による相続税対策については、また別の機会に掘り下げていきた

いと思います。)

また、相続を機に一定の要件を満たした寄付をすると、相続税の対象からその財産を除外する特例が

使える場合があります。


【評価額を下げる】

相続税対策の一つに、銀行借入で土地・建物を取得したうえで貸家業を営み、その家賃収入で返済を

していく、という方法があります。これは一時期大変多く見られた手法でした。

一般的に、建物を新築したときの相続税評価額は建築価額の5割程度、土地の相続税評価額は理論上

時価の8割程度となります。これが貸家とその敷地となると更に評価額は下がります。そのうえ、借入

金は負の財産としてそのまま計上されますので、計算上、取得した賃貸物件を上回る負の財産があると

いうことになるのです。

バブル期以降、銀行と建設業者の大々的な営業活動の結果、たくさんの賃貸オーナーが生まれました。

相続後10 年、20 年と時が経ち、物件の老朽化・陳腐化による入居者の減少に伴う家賃収入の減少、修

繕費用の膨張という負の連鎖、その厳しい実情が知れ渡り、相続税対策の手法として以前のような人気

はなくなりましたが、基本的な考え方としては王道で、現在も取られる手法です。

近年注目を集めている手法として、タワーマンションを利用した相続税対策がありますが、これにも

規制の網がかかることになり、具体的な評価方法も間もなく決定するようです。今後は、多くのタワー

マンションがこの適用を受けることになり、その結果、相続税の増税につながることとなります。

実際の財産価値は下がらず相続税評価額だけ下がる魔法があればいいのですが、なかなか上手くいき

ません。対策と規制はいつの時代もイタチごっこです。


大きく3つに分けて対策の概要について申し上げましたが、実際に対策に取りかかるには、どの方法

にどの程度の力と時間をかけていくのか、ということを考え、計画的に進めないといけません。

「とにかく相続税が不安でとりあえず毎年110 万円ずつ贈与している」という方が結構おられますが、

はたしてそれでいいのでしょうか。その贈与は必要ですか?あるいは、毎年110 万円で追いつきます

か?

それらを判断し、計画を立てるためにはまず相続税の試算をするべきでしょう。現状でどんな財産が

いくらあるのか、相続税がいくらかかるのかということを把握せずに対策をするなんて無謀です。


いずれにしても、“その日”が来ない人はいません。対策を始めるなら今です。