遺産の分け方

中原 圭介 [プロフィール]

遺産の分け方


1.はじめに

 相続が開始すると、亡くなった方(以下、「被相続人」といいます。)の財産は相続人に移転します(民法第896 条本文)。相続人が複数いる場合は、遺産は相続人の共有となり(第898 条第1 項)、遺言書で遺産の分割方法が指定されていない場合は、共有状態を解消して単独所有等にするためには遺産分割手続を採る必要があります。以下では、遺産分割手続の対象となる財産及び遺産分割手続の種類について、ご案内していきます。


2.遺産分割の対象財産

 原則として、相続開始時に存在し、かつ分割時にも存在する遺産は遺産分割の対象となりますが、以下に列挙する遺産については、共同相続人全員の同意がなければ遺産分割の対象とはなりません。

(1)遺産からの収益

 相続開始後遺産分割前に生じた賃料については、共同相続人全員が遺産分割の対象とすることに合意しなければ遺産分割の対象とならず、共同相続人がその相続分に応じて確定的に取得します(最判平成17年9月8日判時1913号62頁)。相続開始後遺産分割前に生じた株式の配当金も同様です。


(2)可分債務

 被相続人の借金等の可分債務については遺産分割の対象となりません。共同相続人間で、実質的な公平を考慮して負担割合を決めることはできますが、あくまで内部的な負担割合を決めることができるに過ぎず、債権者は、各相続人は法定相続分に従った債務の履行を請求することができます。


(3)遺産分割前に遺産を処分した場合

 遺産分割前に遺産が処分された場合は、共同相続人全員の同意がなければ、遺産分割の対象とすることができません(民法第906条2)。遺産分割の対象とすることについて共同相続人全員の同意が得られない場合は、別途、不当利得返還請求等の手続を採る必要があります。実務上、被相続人の死亡直前期に被相続人名義の預貯金から多額ないし複数回の現金出金がある場合は、他の相続人から使途不明金等と主張されて争いになることが多いです。


3.遺産の評価

 遺産分割は、現金・預貯金、株式、不動産、動産などの財産から構成される遺産を具体的相続分に応じて、各相続人に公平かつ適正に分配する手続です。分割の前提として遺産の経済的価値を評価し、定める必要があります。実務では遺産を金銭評価する評価時点は遺産分割時として取り扱っています。以下では評価額が争いになることが多い不動産と株式について評価方法をご紹介します。

(1)不動産

 固定資産税評価額・相続税評価額(路線価)等に一定の倍率を乗じる方法によって、簡便に土地の時価を算出する方法があります。たとえば固定資産税評価額は公示価格の70%程度の価額に設定されていることが多く、相続税評価額は公示価格の80%程度の価額に設定されていることが多いため、それらの割合を割り戻して評価額を算出します。評価額について、相続人間で争いがあるような場合は、不動産鑑定を行うことになります。


(2)株式

①上場株式

 上場株式の場合は、遺産分割時に近接した時点での終値によって算定することが多いです。

②非上場株式

 非情報株式の場合は、国税庁が公表している財産評価基本通達記載の評価方式を参照して評価を行うことが多いです。例えば、小会社の場合は貸借対照表記載の純資産額から11株当たりの純資産価額を計算し、持ち株数×11株当たりの純資産額の計算によって評価をすることが多いです。共同相続人間で価額の合意が成立しない場合には、公認会計士等の専門家の鑑定によって評価をすることが多いです。


4.遺産分割手続の種類

(1)協議分割

 協議分割は、共同相続人全員の意思の合致により遺産の分割方法を決定する手続です。共同相続人間で合意が成立した場合、合意内容を証明するために遺産分割協議書を作成しておきましょう。なお、遺産分割協議書は共同相続人全員の署名と捺印が必要となりますが、共同相続人の数が多く、それぞれが遠方に居住しているなどの事情で共同相続人全員が遺産分割協議書に署名と押印をするのに期間を要する場合は、各相続人が単独で署名捺印する遺産分割証明書の方式で遺産分割協議を証する方法もあります。


(2)調停分割

 共同相続人間で、遺産分割協議が調わない場合には、各相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停手続は、中立的な立場である調停委員の下、話し合いによって遺産分割方法について合意を形成していく手続です。調停が成立した場合は合意内容を記した調停調書が作成されます。


(3)審判分割

 調停によっても共同相続人間で遺産の分割方法について合意ができない場合は、審判手続に移行し、家事審判官が遺産分割方法を決めます。


5.遺産分割協議の注意点

(1)相続人が漏れている💦

 当然のことながら遺産分割協議は共同相続人全員でする必要があります。相続人の一部が漏れていた場合、遺産分割協議は無効となってしまいます。きちんと戸籍謄本を確認して、相続人の漏れがないかを確認しましょう。


(2)遺産が漏れている💦

 遺産の一部が漏れていた場合、漏れていた遺産が重要で、相続人らがその遺産があることを知っていたらこのような遺産分割協議はしなかったであろうと考えられる場合、当該遺産分割は無効になると考えられています。


(3)解除ができない💦

 他の相続人より多くの遺産を取得する代わりに何らかの負担をすること(老親の介護等をする等)を約束して分割協議をすることがあります。しかし、仮に当該相続人が老親の介護をする等の約束を反故にしたとしても、共同相続人全員の合意がなければ遺産分割協議を解除することは認められていません。


6.結語

 遺産分割協議は誰にとっても身近な事柄ですが、法律面・税務面などの専門的知識を持たずに安易な分割をしてしまうと思わぬトラブルに巻き込まれたり、悔いの残る分割となったりすることが多い分野です。

 弁護士=揉め事のイメージがあるかもしれませんが、揉めないためにも専門家を上手く活用していただければ幸いです。

以 上