通達評価と時価評価について(第1回)

中村 光伸 [プロフィール]

テーマ「通達評価と時価評価について(第1回)」


1 はじめに

 相続が発生した際に、相続財産に不動産が含まれることは一般的によくあります。その際に、不動産の価値をどのように把握するのか?その評価方法について触れてみたいと思います。


2 不動産の価値を把握する方法

 「財産評価基本通達(以下、「通達」とします。)」とは、相続財産の評価方法を国税庁が示したもので、一般的には通達に沿って相続財産の金額を評価します。土地については、相続税路線価に基づき、また建物については固定資産評価額に基づき、所要の調整を行い各々の価額を算出します。しかしながら、このような方法により把握した価額が適正な時価を表すか?と聞かれると、答えとしては、「物件毎によって大きく異なる。」と回答せざるを得ません。なぜかと言えば、通達が全国一律に杓子定規に不動産評価を行うルールであるのに対して、個々の不動産は個別性が強く、標準的なモノサシでは適正価値に辿り着かないケースが多いからです。それでは、どういった不動産であれば「通達評価」と「(不動産鑑定士による)時価評価」に差がでやすいか?について、具体例を挙げながら説明していきたいと思います。なお、差が出やすいパターンは複数ありますので、今回はその中から一つを取り上げて説明していきたいと思います。


3 「三大都市圏内の500㎡未満の土地」又は「三大都市圏外の1,000㎡未満の土地」

 これら地積規模が地域の標準的土地と比較して大きく、不動産業者が購入してミニ開発を行うような土地については、一般のエンドユーザーが個人の住宅用地として購入する可能性は低いです。①買い手が不動産業者に限定される ②不動産業者は分譲事業により収益を獲得する必要がある ③土地の形状によってはミニ開発に当たって潰れ地(道路等)が出る 等の理由により、標準的規模の土地と比較して単価は低くなることがほとんどです。場合によっては、標準的な宅地の50%程度の水準になることもあります。しかしながら、「三大都市圏内の500㎡未満の土地」又は「三大都市圏外の1,000㎡未満の土地」については、通達評価では特段の減額規定がありません。そのため、通達評価と時価評価とで倍半分も価値が異なるケースが散見されます。

以下は実際にあった案件ですが(次頁の【対象土地の様子】参照)、兵庫県K市(三大都市圏外)に所在する約800㎡の土地が相続対象となりました。800㎡の大きな土地であるため、個人のエンドユーザーが住宅用地として購入する可能性はほぼ考えられません。買い手が不動産業者に限定されるため、先述の理由により、100㎡程度の標準的な土地と比較して適正時価は相当低くなるのが当然なのですが、1,000㎡未満であるため通達評価では減額規定はありません。その結果、通達評価約3,600万円に対して、時価評価約1,800万円と倍半分離れる結果となりました。相続税を支払う際の基礎が倍半分異なるため、その結果として税額も倍半分変わってきます。このように、普通に評価すれば低い評価となるのが当然なのですが、国のルールでは1,000㎡を超えるか否かが基準となっており、1,000㎡を超える場合には一定の減額規定があるのですが、そこに少しでも届かない場合には減額規定が一切ないという恐ろしい状況に直面してしまいます。本件は担当の税理士が不動産に詳しい方でしたので、通達評価ではなく不動産鑑定士による時価評価が望ましいという判断をされ、クライアントに説明をした上で不動産鑑定評価に基づく時価評価で税務申告されました。なお、不動産鑑定評価による時価評価が否認されるケースも稀にありますので、当該リスクについてクライアントに了承してもらった上での税務申告となります。

【対象土地の様子】

※三大都市圏:次に掲げる区域等をいいます。

① 首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地又は同条第4項に規定する近郊整備地帯

② 近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域又は同条第4項に規定する近郊整備区域

③ 中部圏開発整備法第2条第3項に規定する都市整備区域


4 結論

 通達評価と時価評価について、一例をみてきましたが、不動産の適正な時価は通達評価のような画一的な基準で推し量れるものでは決してありません。次回以降も別の例をご紹介しながら、どういった不動産であれば通達評価と時価評価で差が出るのかについてみていきたいと思います。

以上